【弁護士とのつきあい方】

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不動産コラム

【弁護士とのつきあい方】

 

当協会の理事で、今年(2025年)10月より弁護士登録22年目に入りました鈴木洋平です。

 

今年10月22日の報道で「警視庁は22日午前、本人に代わって退職の意思を伝えるサービス『退職代行モームリ』の運営会社に、弁護士法違反容疑で家宅捜索に入った。

 

弁護士資格がないのに、退職する会社側との法律的な交渉を第三者に有償で取り次いでいた可能性があるとみて、警視庁は資料を押収し、関係者数十人から事情を聴く方針だ。」というものがありました(朝日新聞)。

 

不動産業にかかわらず事業を営む方々にとって、各々の事業に特化した法(例えば不動産業であれば宅地建物取引業法、建設業であれば建設業法など)の規制は把握されていても、一般的に馴染みの少ない弁護士法の規制は把握できておらず、また弁護士でない自身が弁護士法の規制を受けることの認識が薄いため、上記の報道のような事態に陥ることに注意が必要です。

 

弁護士法はその条文の多くが「弁護士」(弁護士法人を含む。以下同じ。)を対象としていますが、弁護士法72条は「弁護士」でない者、同法73条は「何人も」、を対象とし、違反した場合には弁護士でなくとも「2年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金に処する。」とされています。

 

いずれも「業とする」ことが条件のため、事業を営む方々は、ご自身に対する法規制として注意しなければならないものです。そこで、この記事ではこれらの解説をいたします。

 

報酬を得る目的で法律事務

 

まず、弁護士法72条は、「報酬を得る目的で」他者の「法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすること」を禁止しています。

 

冒頭の報道では、運営会社が、顧客を弁護士に取り次いで報酬を得ていたことを容疑として、警察が家宅捜索したのです(運営会社並びに代表者及び担当者は、今後刑罰に処される可能性があります。)。

つまり、事業を営む方々が、他者の法律事務を取り扱ったり、あっせんする業務をして報酬を得てはならないということで、自らの顧客を弁護士に紹介して紹介料を得た場合(弁護士から、顧客から、のいずれであっても)には、これに違反するので注意が必要です。

 

なお、具体的事案としては、最判H22.7.20の「土地家屋の売買業等を営むY1(法人)の代表取締役Y2らが、Y1の業務に関し、報酬を得る目的で、業として、A社から委託を受けA社の所有するビルの賃借人らと立退交渉を行い、賃貸借契約の合意解除契約を締結するなどして明渡しを受けたこと」が弁護士法72条に違反し有罪とされたものがあります。

 

弁護士でない不動産業者が、他者から報酬を得る目的で依頼を受けて立退き交渉という法律事務を取り扱った、と判断されたのです。

 

 

報酬を得る目的でなくても

 

次に、弁護士法73条は、「他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によって、その権利の実行をすること」を禁止しています。

 

72条と異なり「報酬を得る目的」の有無を問いません。この規制の趣旨は、「権利の譲渡を受けることによって、みだりに訴訟を誘発したり、紛議を助長したりするほか、同法72条本文の禁止を潜脱する行為をして、国民の法律生活上の利益に対する弊害が生ずることを防止するところにある」(最判H14.1.22)とされています。

要するに72条で他者の法律事務の取り扱いができないなら、自分で権利を買い取って自分事として法律事務をやってしまおう(他者事ではないから72条違反ではない)ということを禁止しているのです。

 

なお、具体的事案としては、

 

①借家人と明渡しを巡って揉めている不動産を不動産業者が購入して明渡しと賃料相当損害金の支払を求め提訴したがいずれも棄却されたもの(熊本地判H31.1.1「不動産の所有者と占有者との間で占有者の占有権限の有無について紛争がある場合に、不動産の所有者の利益を図る目的で不動産を譲り受けて占有者の明渡しを実現することは、占有者の法律生活上の利益に対する弊害が生ずるおそれのある行為」)

 

②債権の成立に疑義がある債権を大量に買い取って支払いを求めた事案で懲役1年6月等の有罪とされたもの(最判H24.2.6「被告会社が譲り受けた本件債権は、長期間支払が遅滞し、譲渡元の消費者金融業者において全て貸倒れ処理がされていた上、その多くが、利息制限法にのっとって元利金の再計算を行えば減額され又は債務者が過払いとなっており、債務者が援用すれば時効消滅となるものもあったなど、通常の状態では満足を得るのが困難なもの」)、でいずれも弁護士法73条違反が認定されたものがあります。

 

 

税理士法、司法書士法、行政書士法、不動産の鑑定評価に関する法律(不動産鑑定士)、宅地建物取引業法(宅建業者・宅建士)など、各種士業に関する法律でも同じように、当該士業以外の者を規制する法律があるので、事業を行う方々は注意して欲しいところです。

 

なお、このテーマは拙著「不動産業者のための 弁護士との協業のすすめ」(幻冬舎メディアコンサルティング)にも掲載しております(154頁)。

以上

 

執筆者:鈴木洋平

M&Fパートナーズ法律事務所

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